少し時間があったので喫茶店に入ったところ

昔、世話になった人に会った

探偵をやる前だから

かれこれ20年ぶりくらいになるのか

少し立ち話をするも

お互いに他の人といたこともあり

電話番号だけ交換して

その時は別れた

後日、こちらから電話をかけ

近状報告など世間話をする

彼は今も自営の仕事をしているそうな

そして

一週間ほどしたある日

彼から電話があり


「相談があるから会ってくれないか」


とだけ言われた

20年ぶりくらいにあった彼は裕福そうな身なりではなく

自分の商売もあまりうまくいっていないと言っていた為


「また、金を貸してくれと頼まれるんだろうな」


そう思った

そして、翌日

待ち合わせの場所に行くと

彼は既に来ていて


「少し待っててくれ」


小走りで車に戻っていく


「何か持ってくるんだろうか?」


と思っていると

その人は

2匹の子犬を連れてきた


「5日前に近くのゴミ捨て場に捨てられていたんだ」

「あんまり可哀そうなので自宅に持ち帰ったけれど」

「俺のマンション、ペット禁止だから・・・」

「可愛がって飼ってくれる人いないかな?」

「俺、相談する人少なくて」


その瞬間

金を借りたいのだろうなんて

疑った自分が

恥ずかしくて、恥ずかしくて・・・・

一瞬、言葉を失ったけれど


「3日で探してきます」

「本気で可愛がって飼ってくれる人を!」


あてはなかった

そんな人を疑ってしまったという懺悔の気持ちもあり


「探偵なんで、人を探すのが得意ですし」

「いろんなツテもあるんですよ」


そう言うと彼は


「無理しなくていいんだぞ」

「もし、いたらというだけでいいんだぞ」

「大家さんは悪い人ではないから」

「頼めば飼い主が見つかるまでなら許してくれるだろうし」


そう言われたら、吐いた唾は飲めない

何が何でも

めちゃめちゃ可愛がってくれる犬の好きな人を見つけるしかない

それからというもの

私の知りうる限り

全てのツテを使って

飼ってくれる人を探して、探して、探しまくった



明日

彼と共に

飼ってくれるという夫婦に会いに行くことが決まりました

3日という約束は守れなかったけれど

見つけた飼い主さんは

最近、長年飼われていた愛犬を亡くされた

60代の夫婦の方です

そのことを世話になった方に知らせると

横にいるであろう子犬たちに


「おお、お前たち」

「前にあった○○(番長のこと)が、飼い主を捜してくれたって」

「本当に良かったなぁ」

「本当に良かったなぁ」

「兄弟の分まで可愛がってもえらえよ」


と喜んでくれた

よくよく聞くと

彼が子犬たちを見つけた段ボール箱の中には

子犬たちの兄弟であろう犬の死体もあったそうです

まだ実際に会って話したのは

奥さんの方だけなのですが

旦那さんには既に何枚もの写真を見せてあり

電話で話すと

すごく気に入って

早く飼いたいと言ってくれてました

でも

今回のことで

自分の小ささを思い知るとともに

いくら少しばかり裕福になったとしても

心が貧しいことほど情けないことはない

ということに気づきました

大人になるに従い

いつの間にか汚れていく心は誰しもあるのではないでしょうか

そんな中

番長が昔お世話になった彼は

商売は下手なのかもわからないけれど

いつまでも独身かわからないけれど

ずっと変わらず良い人で

そんな人だからこそ

幸せになって欲しいと願うのです



それこそ余計なお世話だな

あの人は今までも

ずっと幸せなんでしょう

番長よりも10歳ほど年上

この世に

縁や巡りあわせというものがあるとしたら

10年後に私は

彼と同じように

捨てられた子犬を見つけられる人になれるのでしょうか

優しさを持っている者にしか

見えない事が見えるようになれればいいな

「40にして惑わず、50にして天命を知る」

孔子は言ったけれど

何を優先して生きていけばいいのか

40を超えても迷い続ける番長です

yahashi